特殊詐欺犯(入居権詐欺)がカンボジアから強制送還

 各種報道によると、カンボジアで特殊詐欺の掛け子を行っていた25人の日本人が日本に強制送還され、逮捕されたとのことです。主にいわゆる「入居権詐欺」を行っていたとのことです。掛け子の人数はとても多く、異常です。

 入居権詐欺は、かなり以前からある典型的な詐欺手法です。「貴殿に老人ホームの入居権が当選しました。」等の電話を掛け、断ると「入居権を他の方に譲って構わないか。」と持ちかけるようです。

 その後、「あなたが譲った入居権を利用して他の人が入居することになった。しかし、入居権はあなたにあるのでこれは悪質な名義貸しである。警察沙汰にならないようにするためには○○万円が必要。」等の嘘を言い、大金を騙し取る手口が一般的なようです。詳細は、独立行政法人国民生活センターのWEBサイト等を参照願います。

入居権の成立要件

 そもそも「入居権」の成立要件を理解していない方が多いようです。アパートやマンション等の賃貸物件に入居する際には賃貸借契約を締結し、賃借人になることにより入居が可能になります。

 また、住宅やマンションを購入する際には不動産売買契約を締結します。売買契約に基づき、代金を支払った時点で所有権が移転し、所有者になることにより入居が可能になります。

 老人ホームや介護施設に入居する場合も契約を締結し、一時利用金や権利金の支払を求められます。全て契約の締結が前提です。

 つまり賃借権や所有権、一時利用権等があることにより入居が可能になります。前提となる契約が締結されていなければ「入居権」はありません。

 「抽選で当たりました。」等と言われても、その時点では賃貸借契約、売買契約、一時利用契約などの契約は何も締結されていないので「入居権」は存在しません。「入居権を他人に譲って構わないか。」と訊かれたことから「構わない」と答えた場合でも、存在しない権利を譲るという話なので、無意味です。

 犯人は名義貸し、犯罪、警察沙汰、裁判といった言葉を利用して不安に陥れます。複数の人物を登場させる等、いわゆる劇場型になっているようです。法律を理解していない高齢者などは騙されやすいと言えます。

犯罪拠点を国外に移している

 日本国内で特殊詐欺を行うことは難しくなっています。オーナー様や近所の方から怪しいと思われれば通報されますし、入居審査が数年前と比べると厳格化しているからです。

 宅建業法などが改正され、連帯保証人になろうとする方に対し、保証の極度額を告知しなければならなくなりました。このため、大半の賃貸物件において家賃保証会社と賃借人との間で保証契約を締結することが必要になりました。

 家賃保証会社は入居審査を厳格に行います。このため、特殊詐欺を行う目的で賃貸物件を借りることはかなり難しくなりました。

 国内を犯罪拠点に出来なくなったことから海外を拠点にするようになったものと思われます。しかし、何故SNS上の「闇バイト募集」に安易に応募し、海外に連れ去られ、監禁されて犯罪を強制される若者が多いのでしょうか。

 逮捕されたら詐欺罪に問われ、最長で懲役15年(詐欺罪は最高で10年の懲役刑、複数事案なので1.5倍)を言い渡されます。当然、民事責任も追及されます。しかし、不法行為なので破産宣告による免責を受けられません。

 「監禁され、脅されたことから仕方なく詐欺行為に加わった。」等と主張しても、無罪になることはまずありません。少し調べれば悲惨な運命に陥り、一生を棒に振るうことがわかりそうなものです。何故「闇バイト」に対する応募者が多いのか、とても不思議です。