新型コロナウイルス対策におけるマンション管理組合の暴走

 自身が所有する中古区分マンションを売却するために室内をリフォームしようとしたら、管理組合がリフォーム工事を許可せず、許可しない理由は訳のわからない新しいルールにあることから訴訟が提起されました。

 不合理なルールを理由として管理組合がリフォームを許可しないのは、管理組合の暴走であると言えます。今日は、この事件について解説します。朝日新聞DIGITALから引用します。

※掲載社の都合によりリンク先の元記事が削除され、リンクが切れることがあります。

マンションのリフォーム、コロナ理由で拒否できる? 裁判所の判断は

朝日新聞 森下裕介2022年9月4日 16時00分

 30年近く前に購入したマンションをリフォームしたいのに、管理組合から断られた。「新型コロナウイルス予防の観点から」というのが理由という。自身の資産の取り扱いがなぜ、コロナを予防するため、制約を受けなければならないのか――。疑問に思った所有者の50代男性は、リフォームを妨害しないよう管理組合に求める仮処分を大阪地裁に申し立てた。

~中略~

 マンションの管理規約によると、リフォームする場合、事前に理事長の承認が必要だが、規約に反するような内容でなければ許可しなければならない、と定められている。男性は、キッチン、浴室、洗面台の取り換えを計画。工事の日程も固まり、昨年8月、管理組合側にリフォームを申請した。だが、返答は意外なものだった。

~以下、略~

朝日新聞 DIGITAL

 新ルールの概要は、「新型コロナウイルス予防の観点から、新型コロナウイルス感染症が終息するまでリフォーム工事を禁止する」というものです。

 判決は「管理組合がリフォーム工事を許可しないことは不当である」とするものでした。

 新型コロナウイルス感染症がいつ終息するのかは誰にもわかりませんし、何をもって「終息した」と判断するのかもわかりません。つまり、「半永久的にリフォームを禁止する」ことが想定される点が問題になります。

 このルールはマンションの資産価値を守るという点においても問題があります。リフォーム工事を行えないマンションの資産価値は大きく下がります。

「工事を行う職人が新型コロナウイルス感染の原因になる」という発想

 このようなルールは荒唐無稽であると言えます。新型コロナウイルスに感染する可能性は、誰にもあります。

 リフォーム業者の立ち入りを禁止するのであれば、室内設備の修理業者、宅配業者の配達員、郵便局員、共有部の清掃員、消防点検等を行う業者、排水管の洗浄を行う業者、電気およびガス会社の点検担当者、水道の検針員、エレベーターやオートロック等の点検業者の出入りも禁止しなければ整合性がとれません。大規模修繕を行う時期が到来しても、新型コロナウイルス感染症が終息する迄、何年も修繕を行わないというのでしょうか。

 さらに、賃貸物件として利用されている部屋に空室が生じた際には次の入居者を募集することになりますが、不動産業者および内見希望者の出入りも禁止するのでしょうか。

 「感染防止のために工事業者の出入りを禁止したい」という発想に基づきこのルールを定めたのであれば、ルールを考えた方の発想の根底にあるのは「工事業者が新型コロナウイルスを持ち込む」と決めつける「職業差別」です。しかも訴訟において判決が確定するまで住人と争っていることから、工事業者の職人に対する職業差別意識は相当に酷いとしか思えません。

原因は、「管理組合の活動に対する住人の無関心」か

 少し考えれば荒唐無稽であることがわかりそうなのに、このような異常なルールが成立する背景にあるのは「管理組合の活動に対する住人の無関心」です。どのマンションにおいても管理組合の理事に就任することを希望する方が少なくなっています。このため、他の誰にも相談することなく理事長一人の独断で全ての事項を決裁するマンションが増えています。

 管理組合理事長の独断で全ての物事が決まるマンションでは、建物全体の管理を受託している管理会社から理事長に意見することは難しいようです。管理組合の暴走は、このようなマンションで生じがちです。

 管理組合が正常に機能していれば、上程するルールにおける異常な点を理事または住人の誰かが指摘したものと思われます。新しいルールを上程する際は内容を住人に周知し、必要に応じ説明会を開催し、臨時総会等で決議するのが通常であり、決議迄の過程のいずれかで指摘され、是正されたはずです。

 それにもかかわらず、このマンションでは誰が考えても不合理としか思えないルールが成立していることから、 ほとんどの住人が管理組合の活動に無関心であったものと推察されます。

 中古の区分マンションを購入する際は、自己居住用、収益用のいすれであっても管理組合の活動状況に注意することが必要であると言えます。