1棟ものの収益用不動産を購入する際は「実質利回り」とその内容に注意

1棟ものの収益用不動産(賃貸アパート、賃貸マンション等)の購入、売却に関する相談を受けることがあります。

収益用不動産の売却時における査定価格は、「利回り」で決定される部分が大きいです。実需用(居住用)中古戸建住宅のように建物の価格と敷地の価格との合計で決まることは、ほとんどありません。

「表面利回り」とは
物件に関する販売資料を参照すると、「表面利回り」が掲載されています。表面利回りとは、年間の家賃収入(賃料と共益費・管理費の合計)を物件価格で割り、パーセント表示にしたものです。

例えば、月賃料7万円の部屋が10室ある賃貸アパートにおける年間の賃料収入は 7万円×10×12=840万円 となります。賃貸アパートの価格が14,000万円である場合、表面利回りは 840÷14,000×100=6% となります。この賃貸アパートにおける表面利回りは6%になります。

この表面利回りは計算方法が単純なので、必ずと言って良いほどに物件資料に記載されています。

また、「想定表面利回り」が掲載されていることがあります。現在は空室があることから賃料収入を得られない部屋があるものの、満室になった際に想定される年間賃料収入を物件価格で割り、パーセント表示に直したものです。

「実質利回り」は、その内容に要注意
収益用不動産の購入に際しては、表面利回りではなく実質利回りに着目します。年間の賃料収入から固定資産税、都市計画税、維持修繕費、消耗品費、共有部の電気料金、保険料、管理費等を差し引いた金額を購入金額で割り、パーセント表示したものです。

賃貸アパートの所有者には固定資産税および都市計画税(都市計画区域のある場合)が課されます。また、火災保険の他に施設賠償責任保険(施設所有者賠償責任保険、施設管理者賠償責任保険)をかけることは必須です。

また、共有設備(オートロック、エレベーター)における点検・維持費、消耗部材費(照明器具等)、電気代が発生します。賃借人がインターネットを無料で利用できるようにしている場合は、通信会社に対する費用が発生します。

さらに、室内設備(エアコン、給湯器など)、外壁塗装、共有設備(オートロック、エレベーター)に関する費用が発生します。これらの費用は毎年発生するものではありませんが、室内設備は10年、外壁塗装や共有設備の更新は10~20年程度に1回の頻度で実施する必要がありますので、費用を積み立てておく必要があります。約20年の間に発生すると思われる金額を想定し、1年当たりの金額を概算として求め、「積み立て費用」とします。

管理をオーナーが自ら行う場合を除く、管理の費用が発生します。管理会社に支払う費用ですが、家賃の出納代行および入居者からのクレーム対応、維持修繕の代行、共有部の清掃を内容とする管理を委託する場合、概ね年間賃料の4~6%を要します。

年間の家賃収入から上述した費用を差し引き、購入費用で割った数値をパーセント表示したものが「実質利回り」になります。

この実質利回りですが、実務では極めて曖昧に理解、運用されているのが実情です。オーナーにより、共有設備に関する定期的な保守契約を締結せず、問題が発生した際にその都度対応してもらう、いわゆるスポット契約をしていることがあります。また、上記の「積み立て費用」を積み立てていないオーナーがたまにいらっしゃいます。このような場合、共有設備の維持費や「積み立て費用」を年間賃料から差し引かずに購入費用で割った値をパーセント表示に直し、そのまま「実質利回り」としている場合があります。

従って、購入する収益用不動産を決める際には「実質利回り」として表示された数値だけではなく、その内容に注意する必要があります。収益用不動産を購入した場合に利益として得られる金額、およびその金額が購入価格の何パーセントに相当するかが問題になります。

実質利回りを計算する前提として、共有部分の保守料や「積み立て費用」を考慮していない物件がありますので、注意が必要です。購入を検討する収益用不動産がある場合は、売主に対し、発生した費用の内容や共有部における保守契約の内容を確認しておく必要があります。

収益用区分マンションにおける「実質利回り」の計算方法は、やや異なります
これについては明日の投稿において書きます。